竹原信一市長は議会制民主主義を否定する独裁者なのか --どのようにメディアは事実を歪めるのか
asahi.com(朝日新聞)に次のような記事が載った。
竹原氏はブログに「議会は時間の無駄」と書き込み、議員を名指しで批判。……〔略〕……
● 「辞めてもらいたい市議は?」市長がネット投票募る
これを素直に読むと、竹原信一氏が独裁者のように思える。議会制民主主義を否定しているように思える。〈議会は不要であり、市長が全て決める〉と考えているように思える。
しかし、本当にそうなのか。「議会は時間の無駄」と言ったのか。竹原信一氏は独裁者なのか。
竹原信一氏のブログを見る。(注1)
12月議会が終った。
どうにもくだらない。私は「議会に対して不信任だ、私に対する不信任決議をして議会解散してもらいたい。」と言ったにもかかわらず、彼らは「不信任決議」を出せなかった。議会改選がある来年の12月までの400万円あまりが欲しいと見える。バカバカしいを超えて哀れ、彼等自身が有権者の意向とは関係なく、ひたすら議員を続けたい人たちであることを証明してしまった。
私は議会は時間の無駄という気もするが、議員たちはその本性を衆目に晒す必要が有るのかもしれない。
市民は、まだまだ市議会の現実を何も分かってはいない。このムダは市民が世の中の仕組みに目覚める為の必要経費と受けとめるしかない。
● 2008/12/23 (火) 時間と経費のムダ
確かに「議会は時間の無駄」という文言がある。
しかし、これは議会制民主主義の否定ではない。
竹原信一氏は、現在開かれている阿久根市議会について「時間の無駄」と批判しただけなのである。
次の二つを区別しなくてはいけない。
1 議会A……議会制度
2 議会B……開かれている個々の議会
議会Bを否定したからといって、議会Aを否定することにはならない。
つまり、竹原信一氏は、議会制民主主義を否定している訳ではない。
確認しよう。
竹原信一氏は自分に対する「不信任決議」を求めた。「不信任決議」が出た場合、竹原信一氏は「議会の解散」をするつもりだった。市民に信を問うつもりだったのである。しかし、議員達は「不信任決議」を出さなかった。竹原信一氏の提案に全て反対しているにもかかわらずである。
このような状態で「来年の12月まで」議会を開くことについて、竹原信一氏は「議会は時間の無駄」と言ったのである。
竹原信一氏は阿久根市議会の現状を批判しただけなのである。
つまり、竹原信一氏は独裁者ではない。議会制民主主義を否定している訳ではない。
しかし、asahi.com(朝日新聞)の記事を読むと、竹原信一氏が独裁者のように思える。議会制民主主義を否定しているように思える。(注2)
つまり、asahi.com(朝日新聞)の記事は虚偽であった。
この批判に対して、先の記事を書いた記者は何と弁解するだろうか。
次のように弁解するであろう。
竹原信一市長が「議会は時間の無駄」と言ったのは事実である。
もちろん、それは事実である。しかし、竹原信一氏が否定したのは議会Bである。現在の阿久根市議会の状態である。それにもかかわらず、asahi.com(朝日新聞)の記事では議会Aを否定しているように読める。議会制民主主義を否定しているように読めるのである。(注3)
これは〈文脈無視の虚偽〉なのである。
現在のメディアは、存在しない発言を捏造することはほとんどない。しかし、発言の一部分だけを取り出すことによって、意味を変えてしまうことはある。文脈を無視することによって、虚偽の記事を作ってしまうことはある。
記者は記事にする事実を選ぶ。その事実の選び方が問題なのである。不適切な選択をすれば、虚偽の記事が出来てしまう。
現在のメディアは「正確に」発言を引用して虚偽の記事を作る。
発言の一部分だけを取り出すことで意味を変えてしまう。
このような〈文脈無視の虚偽〉に注意しよう。(注4)
諸野脇@ネット哲学者
(注1)
ブログがあったから竹原信一氏の発言を確認できた。
だから、記事の虚偽を発見できた。
公人がブログを持つ意義は大きい。
(注2)
asahi.com(朝日新聞)は、記事から竹原信一氏のブログにリンクを張っておくべきであった。
ジャーナリストは〈自分の解釈が間違っているのではないか〉という恐れを持っているべきである。
読者が自力で解釈できるようにしておくべきである。
この論点は次の文章で論じた。
● リンクを張らないニュースサイトは役に立たない --東方神起「呪文」は「扇情的」か
(注3)
実は、ある程度誤解が生じないようにするのは簡単であった。
「(このような)議会は時間の無駄」と書けばよかったのである。「このような」と補えばよかったのである。
こう書くだけで、「議会」の意味が明確になった。竹原信一氏が言っているのが、阿久根市議会の現状であることが明確になったのである。
(注4)
私の解釈も間違っているかもしれない。
しかし、それは読者が判断すればいい。そのために、asahi.com(朝日新聞)の記事にきちんとリンクを張ってある。
だが、問題がある。ニュースサイトは記事を削除してしまうのである。
● ニュースサイトは記事を削除するな
記事が無くなってしまえば、読者が判断できなくなってしまう。
仕方がないので、引用しておこう。
私が〈文脈無視の虚偽〉を犯していないかどうかを読者が判断できるようにしておこう。
そのために最低限の引用をする。
つまり、全文である。(笑)
〔以下、記事を引用する。ちなみに、この記事で「ある議員」は「このようなネット投票は議会制民主主義の否定だ」と主張している。この主張は意味不明である。なぜ、「議会制民主主義の否定」なのか。理由を述べるべきである。〕
● 「辞めてもらいたい市議は?」市長がネット投票募る(2009年1月14日15時0分)
「最も辞めてもらいたい議員は?」。鹿児島県阿久根市の竹原信一市長(49)が、自身のインターネット上の日記(ブログ)で「インターネット投票」を呼びかけている。昨夏の市長選で初当選して以来、議員定数削減案や教育委員人事案を市議会に否決され続けてきた竹原氏。「思いつき」で投票を考えたというが、議員からは「議会制民主主義を無視している」との批判が起きている。
ネット投票は竹原氏の12日付のブログにある。市議会の名簿順に議員15人全員(欠員1)の氏名を挙げ、「阿久根市議会で最も辞めてもらいたい議員は?」と投票を呼びかけている。閲覧者が自由に投票でき、投票期間や投票結果を発表するかどうかは作成者が決める。発表しない場合、投票先の内訳は作成者しか分からない。
市議から転身した竹原氏は昨年8月の市長選期間中にブログで他候補を批判し、市選管の指導などを受けて記述を削除。無所属新顔3人を破り、初当選した。市長就任後、市議会9月定例会に副市長と教育委員の人事案を提出したが、賛成少数で不同意。教育長も退任し、空席のままだ。公約に掲げた自身の給料の大幅削減案や議員定数を16から6に減らす条例改正案も否決されている。
竹原氏はブログに「議会は時間の無駄」と書き込み、議員を名指しで批判。昨年11月から市議会の解散や自分自身の支持の是非をめぐり投票を呼びかけており、市議会解散では13日午後10時時点で約540人が投票している。ほかに市長としての活動の報告や家族の話題、式辞の全文掲載などもある。
竹原氏は取材に対し「どのような場であっても、市長も市議も公職なのだから批判されるのは仕方がないものだ。ネット投票はお金もかからないし、思いつきで作っただけ。違法行為ではなく、投票結果が選挙や議会に影響しない」と主張し、市長の立場ではなく個人として投票を呼びかけているという。
ある議員は「このようなネット投票は議会制民主主義の否定だ。市長の不信任案を検討する時期に来ているかもしれない」と反発。別の議員は「竹原市長が個人的な考えを述べているだけで別に気にする必要もないのでは……」と冷めた見方をしている。(三輪千尋、周防原孝司)
■市長も議員も対等の立場
平井一臣・鹿児島大学法文学部教授(政治学)話 正確性のないネット投票は傾向を把握する参考材料にもならない。市長が市民の意見を聴く方法として、ただでさえ慎重さが求められるネット投票という手段を使うことに疑問を感じる。権力者である市長が、同じように公職選挙法による選挙の投票で選ばれた議員の去就を市民に問いかけるのはおかしいからだ。市長も議員も投票で選ばれたという点では対等の立場。こういうやり方をしていては、ますます信頼を損なうことになる。「思いつき」というが、思慮が欠けており、問題は非常に大きい。