前回、いじめの〈発生メカニズム〉の理論モデルを使って、いじめの解決が難しい理由を説明した。いじめの解決のためには「7%協力 ⇒ 65%協力」のような大きな変化が必要なのである。これは非常に大きな変化である。いわば学級で「革命」が起きたようなものである。
いじめを解決するためには、7%しか協力していない状態を過半数が協力する状態に変える必要がある。しかし、そのような大きな変化を起こすのは大変難しい。それは「革命」を起こすようなものなのである。
社会的ジレンマを解決するのは難しい。いじめを解決するのは難しい。「革命」は簡単には起こせない。
だから、いじめの解決は難しい。それならば、最初からいじめを発生させなければよい。社会的ジレンマを発生させなければよい。
つまり、いじめを予防すればよいのである。それでは、いじめの予防とはどのような状態なのか。前回と同じように、いじめの〈発生メカニズム〉の理論モデルを使って説明しよう。
再度、図3を示す。
A点に注目いただきたい。
A点より協力者が多ければ、協力状態に到る。A点より協力者が少なければ、非協力状態に到る。A点が、坂を登るか、坂を下るかの分岐点である。
協力者がA点以下の場合は非協力状態に陥る。例えば、45%しか協力していない場合は次のような悪循環に陥る。
悪循環 45%協力 → 35%協力 → 22%協力 → 7%協力
45%しか協力していないのを見て10%が非協力に転ずる。それを見て11%が非協力に転ずる。最終的には7%しか協力しない状態になる。これが非協力状態である。7%しか協力せず、いじめが多発する状態である。
それでは、協力者がA点以上の場合はどうなるか。協力状態になる。例えば、65%が協力している場合は次のような好循環が発生する。
好循環 65%協力 → 79%協力 → 91%協力
65%が協力しているのを見て14%が協力に加わる。それを見て12%が協力に加わる。最終的には91%が協力する状態になる。これが協力状態である。91%が協力し、いじめが無い状態である。
A点が分岐点として、好循環になるか、悪循環になるかが分かれる。いじめが無い状態になるか、いじめが多発する状態になるかが分かれる。(注1)
だとすれば、A点以上に協力者の数を維持すればよいのである。A点以上に協力者の数を維持することが、いじめの予防である。(注2)
いじめの予防 = A点以上に協力者の数を維持すること
A点以上に協力者の数を維持すれば、悪循環が起きない。非協力状態に陥らない。いじめ状態に陥らない。つまり、A点以上に協力者の数を維持することがいじめの予防である。
A点以上に協力者の数を維持して、悪循環を起こさないようにするのである。
くだけた言い方をすれば、いじめを予防するとは、いじめを起こさないことである。いじめを傍観する者(非協力者)を一定数以上に増やさないことである。逆に言えば、いじめを容認しない者(協力者)を一定数以上に維持することである。A点以上に維持することである。
図3から分かるのはA点以上に協力者を維持すればよいという事実である。
周りの人間の行動を見て、自分の行動を決める状況がある。周りの人間の行動が環境になるのである。「いじめの原因はいじめ」なのである。
そのような状況下においては、いじめを傍観する人間を増やさないことが予防である。協力者を増やすことがいじめの予防である。いじめ行動を起こさせないことがいじめの予防である。
以上、いじめの〈発生メカニズム〉の理論モデルを使って、いじめの予防を説明した。
それでは、具体的にどのようにいじめを予防するのか。どのように協力者を増やすのか。A点以上に協力者数を維持するのか。それは次回以降に論ずる。
(注1)
これは、あくまで理論モデルである。大筋の説明である。
もちろん、現実はもっと複雑である。
今後詳しく論ずる。
(注2)
先の論文で小川幸男氏は言う。
多くの生徒が協力するようになる相互協力状態になるか、多くの生徒が協力しない相互非協力状態になるかの境目はこの場合、A点だということになる。
つまり、相互非協力状態に陥らないようにするためには、ある臨界点A以上にみんなが協力している状態をつくることなのである。逆に言えば、臨界点A以下に協力状態を下げないことが必要である。
「相互非協力状態に陥らないようにするため」には、「A点以上」の協力が必要だという原理を述べていた。