いじめ行動が発生している状況では、傍観者は〈いじめ容認派〉にカウントされる。〈いじめ容認派〉と見なされる。そして、傍観者の割合は九割に及ぶ。傍観者は圧倒的な多数派なのである。
その九割が〈いじめ容認派〉にカウントされては、いじめ状態に陥ってしまう。図3のBの状態になってしまう。社会的ジレンマに陥ってしまう。
しかし、傍観者が〈いじめ否定派〉にカウントされれば、落ち着いた状態になる。図3のCの状態になる。
傍観者の内面は不明なのだから、傍観者はどちらにもカウントされる可能性がある。傍観者は〈いじめ容認派〉と見なされる可能性がある。逆に、〈いじめ否定派〉と見なされる可能性もある。傍観者がどちらにカウントされるかで大きな違いが生じる。いじめ状態になるか、それとも落ち着いた状態になるかの違いが生じる。
しかし、いじめには〈情報の非対称性〉が存在する。いじめ行動は見える。しかし、いじめに否定的な内面は見えない。そのため傍観者は〈いじめ容認派〉にカウントされてしまう。バイアスがかかるのである。
このバイアスに対処する方法は原理的に次の二つである。
1 いじめ行動を発生させない。
2 反いじめ行動を発生させる。
顕在的な行動が集団に大きな影響を与える。はっきと見える行動によって、集団の状態が大きく変わる。だから、行動レベルでの変化を起こせばよいのである。
いじめ行動の発生を抑止すれば、いじめ行動が見えなくなる。それによって、傍観者は〈いじめ容認派〉にカウントされなくなる。〈いじめ容認派〉と見なされなくなる。
また、反いじめ行動の発生を促進すれば、反いじめ行動が見えるようになる。それによって、傍観者は〈いじめ否定派〉にカウントされるようになる。〈いじめ否定派〉と見なされるようになる。
顕在的な行動が傍観者の解釈を変える。傍観者が〈いじめ容認派〉に入れられるか、〈いじめ否定派〉に入れられるかを変える。「協力者の予測数」を変える。
つまり、いじめを予防するためには、傍観者が〈いじめ容認派〉にカウントされるのを防止すればよい。〈いじめ否定派〉にカウントされるようにすればよい。「協力者の予測数」を過半数以上にすればよい。図3のA点以上にすればよい。
そのためには、上の1・2の状況を作ればよい。いじめ行動を発生させず、反いじめ行動を発生させるのである。
ここまでの論述をまとめよう。
1 いじめは社会的ジレンマである。
2 いじめを予防するためには過半数以上の「協力者」が必要である。
3 しかし、いじめには〈情報の非対称性〉がある。
4 いじめ行動を放置すると傍観者が〈いじめ容認派〉と見なされ、過半数以上の「協力者」が維持できなくなる。いじめ状態に陥ってしまう。
5 だから、いじめ行動を抑制する必要がある。また、反いじめ行動を促進する必要がある。
いじめにおいては、大多数を占める傍観者の内面は不明である。だから、顕在的な行動の影響が大きくなる。そのような状況下では、いじめ行動が発生すること自体が協力者数の「予測」を大きく左右する。いじめ行動が放置されていれば、子供は集団内でいじめ行動が容認されていると「予測」する。〈いじめ容認派〉が多数派であると「予測」する。いじめ行動が多発する。結果として、いじめ状態に陥ってしまう。だから、いじめ行動が適切に抑制される必要がある。
スローガンとして述べれば次のようになる。
いじめの原因はいじめである。
だから、いじめ行動が適切に抑制されなければならない。
いじめ状態の「原因」はいじめ行動である。いじめ行動が放置されていると、子供はいじめが容認されていると思ってしまう。〈いじめ容認派〉が多数派だと思ってしまう。〈情報の非対称性〉があるからである。
その結果、「協力者予測数」が図3のA点以下になってしまう。そして、坂を転げ落ちるようにいじめ状態に陥ってしまう。
それを防止するためには、行動レベルの変化が必要である。いじめ行動を抑制し、反いじめ行動を促進するのである。
行動レベルの変化を起こすことが〈情報の非対称性〉のバイアスへの対処である。〈いじめ否定派〉が多数派であることを傍観者に「見せる」のである。