いじめ行動は適切に抑制されなければならない。いじめ行動を抑制するのは、〈教師の役割〉である。監督者の役割である。
教師が〈教師の役割〉を果たさないと、集団はいじめ状態に陥る。いじめ行動を放置すると、集団はいじめ状態に陥る。教師の「不在」がいじめを発生させるのである。
前回、教師がいじめ行動が抑制できなかった事例を挙げた。
「うるさいんじゃ。かっこつけるな! あほの俊介! おまえなんかにいわれたくないんじゃ! この前、おまえのとこで豆腐買ったら、腐ってたわ。くさったとーふー」
教師はこのいじめ行動を抑制できなかった。指導できなかった。
このいじめ行動をどう抑制すればよかったのか。どう指導すればよかったのか。
思考実験してみよう。(注1)
まず、第一声はこうである。気迫を込めて言う。
大樹君、立ちなさい。
今言ったことをもう一度言ってみなさい。
通常は、大樹君は立ったまま黙るはずである。大樹君は、ついかっとなって言った。しかし、落ち着いてみると「マズいことを言ってしまった」と自分で気がつくのである。感情モードから思考モードに変わるのである。(注2)
黙っているので、次のように追い打ちをかける。
どうしたのですか。
今言ったばかりです。
覚えているでしょう。
言ってください。
大樹君はさらに黙り続ける。
大樹君がとても申し訳なさそうしていたら、助け船を出す。(注3)
黙っているということは悪いことをしたと思っているのですね。
この言葉に大樹君が頷いたら言う。
悪いことをしたと分かったのですね。
では、俊介君に謝りなさい。
謝ったら、俊介君に聞く。
俊介君、いいですか。
俊介君が頷いたら、大樹君の指導は完了である。
続いて、全体に対して指導をする。
人のお家の仕事をとやかく言って、相手をバカにするのは差別です。
先生は、差別は絶対に許しませんよ。
こう言って、全体に対していじめ行動は許さないという宣言をするのである。
大筋でこのような流れの指導になるだろう。これで必要な指導がされた。
大樹君の発言を許さず、撤回させる。悪いと認めさせる。そして、俊介君にきちんと謝罪させる。
この指導で学級の正当な秩序が保たれる。教師が〈教師の役割〉を果たしたのである。いじめ行動を適切に抑制したのである。これが教師が存在する状態である。監督者がいる状態である。
先の事例と比べて欲しい。先の事例では、教師が〈教師の役割〉を果たせなかった。いじめ行動を放置してしまった。教師が「不在」であった。監督者がいない状態であった。
その結果、坂を転げ落ちるようにいじめ状態に陥ってしまった。「学級が騒乱状態に入るまで、三日しか必要としなかった」のである。
「いじめの原因はいじめ」である。いじめ行動を放置すれば、いじめ状態に陥ってしまう。だから、いじめ行動を適切に抑制しなければならない。
そのためには教師が〈教師の役割〉を果たす必要がある。教師が存在する必要がある。教師の存在がいじめ行動を抑制するのである。
(注1)
教師の指導中にこのような発言がされること自体が異常な事態である。
だから、本来は、このような発言がされないように前もって手を打っておくべきである。
しかし、この異常な発言をどう指導したらいいかを考えることは有益である。いじめ行動の抑制の例を示すことができるからである。
だから、これは思考実験である。
(注2)
感情モードを思考モードに変えるためには、静寂が必要である。緊張した雰囲気が必要である。静まりかえった教室に一人で立っているから、自分の言動を反省できるのである。だから、教室が騒がしい時には、静かにさせる必要がある。静かにさせるには様々な方法がある。
しかし、その前提として、教師が差別に対して〈強い怒り〉を持っていることが重要である。教師の〈強い怒り〉は子供に伝わるのである。
(注3)
この段階で大樹君が反省の色を見せない場合は、さらなる手立てが必要である。
例えば、次のようにである。
大樹君が言ったことがよいと思う人は手を挙げなさい。ほら。誰も手を挙げていないよ。みんな、君がしたことが悪いと言っているよ。
集団が大樹君の言動を支持していないことを顕在化させるのである。