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【いじめ論33】反いじめ行動を発生させることによって、いじめを抑止する

 顕在的な行動が集団に大きな影響を与える。行動は見える。しかし、内面の「思い」は見えない。〈情報の非対称性〉があるのである。
 だから、いじめ行動が放置されれば、〈いじめ容認派〉が多数派に見える。いじめ行動が目立って見えるからである。多くの生徒が「いじめは悪い」と思っていたとしても、〈いじめ容認派〉が多数派に見える。内面の「思い」は見えないからである。
 顕在的な行動が集団に大きな影響を与える。そのようなバイアスがある。
 このバイアスに対処する方法として次の二つを挙げた。

 1 いじめ行動を発生させない。
 2 反いじめ行動を発生させる。

 行動のレベルで変化を起こすのである。
 既に、1については説明した。いじめ行動の発生を適切に抑制すれば、バイアスの悪影響は防止できる。いじめ行動が抑制されれば、当然〈いじめ容認派〉が多数派には見えない。
 以下、2を説明する。これは1と逆の発想である。顕在的な行動が大きな影響を与えるのならば、反いじめ行動を顕在化させてしまえばよい。反いじめ行動を発生させることが、集団によい影響を与える。反いじめ行動を顕在化すれば、〈いじめ否定派〉が多数派に見える。
 実は、初期値においては、多くの学級で〈いじめ否定派〉が多数派なのである。だから、それを顕在化させればよいのである。行動の形にすればよいのである。
 次の小川幸男氏の実践を見ていただきたい。反いじめ行動を発生させる実践である。「いじめや暴力をしない」ことを生徒に宣言させるのである。(注1)


 できれば入学した当初に、生徒の思いを吸い上げる形で「決意文」「宣言文」を作らせる。そして、その「決意文」「宣言文」を集団で採択させる。
 教師が「いじめはやめよう」と思いを語るだけでは、余り効果はない。自分たちで決意をした形をつくることが重要である。
 他の生徒も「いじめや暴力をしないと宣言したこと」をお互いに確認しあうことが大きな目的である。だから、採択の際には挙手をする、起立をする、あるいは署名をするなど賛成したことが他の生徒にも見える形を必ずとる。……


 小川幸男氏は次のような「宣言文」を採択させた。
 生徒会として「いじめ・暴力徹底追放宣言」を採択させた。(注2)


いじめ・暴力徹底追放宣言
            ―いじめ・暴力をなくし、住みよい学校を!―

私達、生徒会の基本方針は「住みよい学校をつくることです。私達生徒一人ひとりは、 誰もが「楽しい学校生活を送る権利」を持っています。 この「権〔原文のママ〕を侵害することは誰にもできません。
 しかし、“いじめ”や“暴力”という行為は、この「権利」を侵害するものです。これはいじめられた人の身になって考えれば、よく分かることだと思います。
ですから、“いじめ”や“暴力”を許してしまっては「住みよい学校をつくる」ことはできません。だからこそ、私達生徒は一人ひとりを互いに大切にし合い、「住みよい学校をつくる」ため、“いじめ”や“暴力”を徹底的に追放しなければなりません。
 よって、Y中学校生徒会は次の事を宣言します。
1 どんな理由があっても、“いじめ”・“暴力”を許さない学校をつくっていこう。
2 不正なことには、「やめよう」と言おう。
3 問題が起こった時は“暴力”・“力関係”で解決せず、クラスで討議し、自分達の力で解決していこう。

                 平成6年1月29日
                  Y中学校生徒会


 このような「いじめ・暴力徹底追放宣言」の採決は有効である。
 いじめに反対する宣言を生徒自身が採択したのである。挙手・起立・署名などの行動が「他の生徒に見える形」で採択したのである。
 これは反いじめ行動である。生徒集団はいじめに反対している。その事実を行動の形で顕在化したのである。
 反いじめ行動を発生させることは重要である。反いじめ行動を発生させることには次のような効果がある。

 〈いじめ否定派〉が多数派であることを見せる。

 いじめに反対する宣言が挙手・起立・署名など「他の生徒に見える形」で採択された。集団の大多数がいじめに反対している事実が示されたのである。
 通常、「いじめは悪い」という内面の「思い」は、行動として顕在化することはない。いじめを傍観する傍観者が大多数を占めるからである。しかし、宣言を採択する形式を取ることで、反いじめ行動が顕在化したのである。
 反いじめ行動が見えるようになった。それによって、学級の大多数が〈いじめ否定派〉にカウントされるようになる。〈いじめ否定派〉と見なされるようになる。生徒は「〈いじめ否定派〉が多数派である」と感じるだろう。
 このような宣言が採択されては、いじめをするのは困難である。
 いじめは社会的ジレンマ現象である。いじめる者は、自分たちの行動が集団に容認されていると感じるからいじめをおこうなうのである。それが、実際は少数派だったらどうだろうか。集団に容認されていないことが分かったらどうだろうか。いじめを続けるのは難しいだろう。
 〈いじめ否定派〉が多数を占める中では、いじめをおこなうのは困難である。だから、〈いじめ否定派〉が多数派であるという事実を見えるようにすることが重要である。
 「いじめや暴力をしない」という宣言を採択することによって、〈いじめ容認派〉が多数派に見えるバイアスに対処することが出来た。顕在的な行動が集団に与える影響が大きいというバイアスに対処することが出来た。〈情報の非対称性〉に対処することが出来た。
 反いじめ行動を発生させることによって、いじめを抑止できたのである。


(注1)

  小川幸男「社会的アプローチによる世論づくり」『楽しい学級経営』明治図書、1994年10月


(注2)

  明石要一・小川幸男「生徒会活動を通じた学校活性化の方法」『千葉大学教育学部研究紀要』第45巻 、1997年


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2016年01月22日 23:49に投稿されたエントリーのページです。

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