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【いじめ論4】 熱血教師が「いじめは絶対に許されない」と言っても効果は無かった

 「いじめは絶対に許されない」と言って聞かせた実例を挙げる。
 中学校教師である野口良子氏は〈机をつけてもらえない子〉を発見した。それを「いじめ」と判断した。
 そして、野口良子氏は激しい怒りを示した。「いじめは絶対に許されない」と言って聞かせた。説諭をした。
 次のようにである。

 「どういうことなのか、まわりの人、答えなさい!! リカとどうして机をはなさなきゃいけないのか説明しなさい。私は、君たちが中学生になってはじめての授業だからと一週間は黙って様子を見てきたけど、もう我慢できない!! どうしてリカのまわりだけ机の位置が乱れるの!! アキオ、答えてください!!」
 リカの両サイドの子どもたちが目をそらす。いわゆる優等生のアキオは、不服そうな表情のまま、わずかに自分の机をリカの側に寄せる。
 私は邪険にアキオの机を引き寄せ、リカの両サイドの子どもたちの机も強引に移動させる。子どもたちは、机の脚に自分の足をからませながら、素知らぬ顔で私を見つめ、私に机を動かせまいと抵抗している。私は、子どもたちをにらみすえながら荒々しく机や椅子を動かす。子どもたちは、私の力とけんまくに押されながらも、まわりの子どもたちと顔を見合わせ、抵抗を続けるべきか否かを暗黙のうちに相談しあっている。どうやら「抵抗はムダ、野口はしつこいぞ、もうやめとこ」となったらしく、机の脚から足をはなし、抵抗をやめる。私は黙々と、自分の手で次々と机の位置をととのえ、三八名の子どもたちの机の間をゆっくりと歩く。ひとりひとりの子どもたちの目を見つめる。いつのまにか、教室は静まりかえる。
 「君たち。君たちは、人を差別したり、いじめたりすることは、とっても悪いことだって知ってるネ」
 「……」
 「君たち、自分が、リカと同じようにされたらどんな気がする? 嬉しい? 学校へくるのが楽しくなる? 私は、リカに感心しているよ。リカは、たくましい子だと思うの。君たちから、毎日毎日こんな扱いを受けても、こんなに明るい顔をして休まずに学校へ来ている。私がリカだったら、悲しくて学校なんか休んでしまうだろうと思うの。今の野口先生はたくましいけど、中学生の頃の私は、弱い子だったから……」
 「……」
 「君たちは、A中学校は悪いと思っているネ。二年や三年の先輩が、これ見よがしにタバコ吸って廊下を歩いていたり、服装違反してたり、先生にまき舌で文句言ってたりするのを見て、悪い奴って思ってるネ。でもネ、私は、あの子たちより、一年生の君たちの方が恐ろしい、心配だって思っているの。こんなふうに毎日毎日、リカをいじめている。このことの方が、二年や三年のツッパッてる子よりうんと悪い、ものすごく悪い、人間として許せないくらい悪い!! って思ってる。人間には、許せる誤ちと許せない誤ちってものがあるのよ。服装違反をしてることは許せても、人間をバカにする、いじめる、差別するってことは許せない。許してはいけないことなの。二年の子がタバコを吸っているからといって、学校へ来るのがイヤになるほどみじめな心になったり、となりの席の子が服装違反しているからって、生きることに絶望して自殺することなんてある? ないでしょ。でも、もし、リカのようにたくましい子でなければ、毎日のようにこんな『いじめ』されたら死にたくなるかもしれない。君たちのやっていることは、殺人的な悪さ、犯罪だってことをわかりなさい。二年、三年のツッテパッてるあの子たちより、何十倍、何百倍も悪いことをしているのです……」
 (野口良子『いじめを跳ね返した子どもたち1』明石書店、12~14ページ)

 野口良子氏は「いじめは絶対に許されない」という趣旨を言って聞かせた。
激しい怒りを示した。厳しく説諭した。
 「リカと同じようにされたらどんな気がする?」と〈他人の気持ちになる〉ことを求めた。〈ツッパリ行為よりいじめが悪い〉という原理を説いた。
 しかし、この後も、リカへのいじめは止まらなかったのである。
 説諭には効果が無かった。「いじめは絶対に許されない」と言って聞かせることは効果が無かった。
 国立教育政策研究所が発行した事例集には次のようにあった。
 

・いじめの意味を理解し、いじめを絶対に許さない心を育てる。
(『いじめ問題に関する取組事例集』40ページ)

 野口良子氏も「いじめの意味」を語った。
 次のようにである。

 「となりの席の子が服装違反しているからって、生きることに絶望して自殺することなんてある? ないでしょ。でも、もし、リカのようにたくましい子でなければ、毎日のようにこんな『いじめ』されたら死にたくなるかもしれない。君たちのやっていることは、殺人的な悪さ、犯罪だってことをわかりなさい。」(同上)

 野口良子氏は「いじめの意味」を語った。「こんな『いじめ』されたら死にたくなる」と語った。いじめを「殺人的な悪さ、犯罪」と位置づけた。
 しかし、これを聞いた生徒達はいじめをやめなかった。生徒達はリカをいじめ続けた。
 「いじめの意味」を語っても効果は無かった。「いじめは絶対に許されない」と言って聞かせても効果は無かった。説諭しても効果は無かった。
 なぜ、説諭は効果が無かったのか。ここでは、簡単に概略だけを示しておく。
 説諭に効果が無かったのは、いじめが〈集団的現象〉だからである。

子どもたちは、私の力とけんまくに押されながらも、まわりの子どもたちと顔を見合わせ、抵抗を続けるべきか否かを暗黙のうちに相談しあっている。どうやら「抵抗はムダ、野口はしつこいぞ、もうやめとこ」となったらしく、机の脚から足をはなし、抵抗をやめる。(同上)

 「子どもたちは……〔略〕……まわりの子どもたちと顔を見合わせ、抵抗を続けるべきか否かを暗黙のうちに相談しあっている」のである。集団でいじめを続けるかどうか「相談しあっている」のである。
 このような〈集団的現象〉に対して、個人の「心・意識」に働きかけようとしても効果は無い。「いじめは絶対に許されない」と言って聞かせても効果は無い。(この論点は先の章で詳しく説明する。)
  次の事実に注目していただきたい。
 野口良子氏は情熱あふれる指導をした。具体的ないじめの事実を発見して怒りをあらわにした。理を尽くして原理を説明し、「君たちのやっていることは、殺人的な悪さ、犯罪」とまで言った。「いじめは絶対に許されない」という趣旨を厳しく言って聞かせた。
 それにもかかわらず、いじめは無くならなかったのである。
  「校長、教頭や生徒指導主任等による講話」「学年集会での生徒指導主任等による講話」が効果が無いのは当然である。ただ、 「いじめは絶対に許されない」と話をするだけだからである。
 野口良子氏の指導はそのような「講話」とは違う。野口良子氏の指導は多くの人が理想と考えるような指導である。言わば、金八先生的熱血指導である。しかし、その熱血指導は効果が無かったのである。
 情熱を込めて「いじめは絶対に許されない」と言って聞かせても効果は無かったのである。


【追記】

 十週連続ブログ更新に挑戦中である。

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 第五週目、成功である。

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2015年02月15日 23:48に投稿されたエントリーのページです。

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