議長は「無能」でも務まる。
この事実を端的に表す事態が発覚した。
世田谷区議会が議長職を「たらい回し」にしていたのである。このスキャンダルはテレビ番組「スーパーモーニング」で大きく報道された。(注1)
おととい(5月20日)東京・世田谷区議会で議長選挙が行われた。これまでの大場議長が、任期途中で「一身上の都合で」辞任したためだったが、これがとんでもないことになった。
まだ議長が辞任していない段階で、次の議長の名前と議長公印が押された文書が議場に配布されていたのだった。一部議員が、「不正だ」として追及したため投票は無効となり、きのう再投票になった。選挙の結果は2度とも、まさしく文書の名前の人が選ばれたのだが、これっていったい何なの?
……〔略〕……
同会派の山口幹事長は、「たらい回しというのは理解できない」ととぼけてみせたが、議長を辞任した当の大場やすのぶ議員は「2年で替わるというのは慣例か?」との問いに、「そう、私に限らず、ハイ」とあっさりと認めた。
さらに、「たらい回しがいいかは別にして、事実としては1年ごとに辞表を出して代わってきた。もし議長を辞めなかったら、自民党の会派から出されますよね」とまことに正直。
事実世田谷区では、初代から56代まで62年間、議長は「一身上の都合」で任期途中で辞任している。……〔略〕……
● 「スーパーモーニング」 金と名誉の「共有」堕落か美談か 地方議会の議長「たらい回し」
62年にわたる堂々たる「たらい回し」の伝統である。(苦笑)
彼らにとっては〈議長は誰でも出来る〉ものなのである。だから、「1年ごとに」議長職を「たらい回し」にしていたのである。
議員達は、これをスキャンダルと思っていないのであろう。議会の常識だと思っているのであろう。
それでは、彼らは、なぜ「たらい回し」にしていたのか。「スーパーモーニング」のコメンテーター達は次のように語っている。
山口一臣は、「議長だと選挙で有利でしょうし、歳をとってからもらえる勲章もワンランク上がるかもしれない」
大谷昭宏が、「何とかの会ってのがあるでしょう。あれに呼ばれるのが、地方なんかでは名誉なんですよ」(あっはっはと赤江珠緒の声)
小木逸平が、「じゃあ500万円だけじゃなくて、名誉もみんなで分かち合おうということですか」
〔同上〕
金と名誉を分けあっていたのである。
議長職には、500万円の手当が付く。また、名誉も付いてくる。そのようなうまみがあるものを独り占めするのは「不公平」である。「福利厚生」の一環として、みんなで分けあっていたのである。(苦笑)
しかし、市民から見れば、これはスキャンダルである。議員達は、市民の普通の感覚から大きくズレている。
市民は〈議会は議論をする場所である〉と思っている。
議論を成立させるためには、高い能力が必要である。本来、議長には高い能力が必要なのである。それは、誰にでも出来るものではない。(注2)
例えば、テレビ番組の司会者を想像してもらいたい。例えば、みのもんた氏である。
みのもんた氏が高給取りだからといって、司会の仕事をアシスタントと「たらい回し」にする訳にはいかない。
みのもんた氏は、みのもんた氏の司会能力ゆえに高給を取っているのである。みのもんた氏ではなくアシスタントが司会をしたら、視聴率が落ちてしまうだろう。司会の仕事を「たらい回し」することは不可能なのである。誰にでも出来る仕事ではないのである。
本来、議長もこれと同じである。議論を成立させるためには、高い能力が必要なのである。「たらい回し」できる仕事ではないのである。
本来、議長は「たらい回し」できるような仕事ではない。
それにもかかわらず、世田谷区は議長を「たらい回し」にしてきた。世田谷区では、議長には特別な能力は必要なかったのである。議長に専門的な高い能力が必要なかったのである。それは、〈議会が議論をする場所ではなかった〉からである。
議会が議論する場でなければ、議長職がただの「うまみ」に見えても仕方ないだろう。(苦笑) 何もせずに、高い給与と名誉が手にはいるのである。
注目するべき事実がある。
世田谷だけかと思って23区に聞いたところ、20の区から回答があって、全部が1年ないし2年で交代している。
〔同上〕
23区のうち、少なくとも20区が「たらい回し」をしているのである。(残りの3区も回答が無かっただけある。その3区も、とても怪しい。笑)
回答を寄せた自治体は全て「たらい回し」をおこなっていたのである。
前回の文章の最後に私は次のように書いた。
もちろん、これは阿久根市だけの傾向ではない。全国的に、ほとんどの議長が「無能」なのである。それは、ほとんどの議会が議論をする場所ではないからである。(苦笑)
次回の文章でその証拠を示す。
● なぜ、議長は「無能」なのか
この事実が「証拠」である。
調査結果が判明した全ての自治体で議長が「たらい回し」にされていた。つまり、議長は「無能」だったのである。特別な能力が必要とされていなかったのである。
全国全ての自治体を調べても、この傾向は変わらないであろう。
議長の「たらい回し」はスキャンダルである。しかし、それはもっと大きなスキャンダルの表れに過ぎない。
それは〈ほとんどの議会が議論をする場所になっていない〉というスキャンダルなのである。
諸野脇@ネット哲学者
(注1)
この事実は、戸田ひさよし氏の次の文章で知った。
● 門真市も他人事じゃない! 議長「たらい回し」、世田谷区で不正発覚し大問題に!
お礼申し上げる。
(注2)
議長には高い能力が必要である。議論を成立させるためには、高い能力が必要なのである。
例えば、質問にまともに答えない議員には次のように指導しなくてはならない。
牟田学君は〈竹原信一市長のブログのどこが公職選挙法の何条に違反しているのか〉を質問したのです。質問にきちんと答えなさい。
● なぜ、議長は「無能」なのか
議論を理解し、議論に介入し、議論を整理する能力が必要なのである。
このような能力は、議員全員が持っているものではない。
特別な能力なのである。