【いじめ論24】いじめの解決が難しい理由
社会的ジレンマは、周りの人間の行動を環境として発生した状態である。お互いに影響を与え合った結果がその状態なのである。
だから、非協力状態に陥ってしまった場合は、それを変えるのは難しい。いじめが横行する状態に陥った場合は、それを解決するのは難しい。
もう一度、図3を見ていただきたい。
非協力状態は次のように発生する。
悪循環 45%協力 → 35%協力 → 22%協力 → 7%協力
周りの人間が45%しか協力していないのを見て10%が非協力に転ずる。それを見て11%が非協力に転ずる。そのような形で最終的には7%しか協力しない状態で安定する。これが社会的ジレンマ状態である。7%しか協力していない状態である。
この社会的ジレンマ状態を変えるためにはどうすればいいのか。非協力状態から協力状態に変えたいのである。しかし、現状は7%で安定してしまっている。たとえ35%に協力者を増やしても、7%に戻ってしまう。
図3から分かる結論は次の通りである。社会的ジレンマを解決するためには、協力者を一気に増やすしかない。7%しか協力していない状態から、協力者をA点(52%)以上に増やすのである。過半数を超える人間を協力者にしなくてはならない。
もし、協力者を7%から65%に増やすことができれば、次のような好循環が起こる。
好循環 65%協力 → 79%協力 → 91%協力
周りの人間の65%が協力しているのを見て14%が協力に加わる。それを見て12%が協力に加わる。そのような形で最終的には91%が協力する状態に改善される。
しかし、どのように協力者を7%から65%にするのか。7%に陥ってしまっている社会的ジレンマ状態をどのように変えるのか。非常に難しい。
だから、解決には「爆発」が必要である。「大きな力」が必要である。
既に、いくつかの「爆発」の例を挙げた。
例えば、クールビズ問題である。夏に上着を着てネクタイを締めると苦しい。しかし、周りの人間がそうしているため自分もそうせざるを得なかった。この社会的ジレンマはどのように解決されたのか。
東日本大震災で福島第一原発が爆発した。また、火力発電所が止まった。そのため、深刻な電力不足が起きた。停電になり、電気が止まった。冷房が止まった。
その状況下では、上着を着てネクタイを締めていることは困難である。それでは、あまりにも暑い。だから、周りの人間がクールビズに協力するという「予測」が生じる。好循環が起きる。
好循環 7%協力 ⇒ 65%協力 → 79%協力 → 91%協力
爆発によって、協力者が7%から65%に増える。それを見て、協力者がさらに増える。そして、最終的には91%が協力する。大多数が、上着を脱ぎネクタイを外す。
爆発によって、クールビズ問題が解決された。会社員が夏に適した服装をするようになった。社会的ジレンマが解決されたのである。逆に言えば、爆発が起きなければ社会的ジレンマは解決されなかっただろう。
いじめを解決した事例も挙げた。向山洋一氏がいじめ行動を追及した事例である。
○○君、どうしたのですか。そうですか。言わないのですか。では、言うまで聞きましょう。
××君。あなたはさっき○○君をひやかしていました。あれは何のことですか。
いじめをした当人だけでなく、傍観者(扇動者)も追及された。追及され苦しい思いをすることになった。
この追及が「爆発」として機能した。「大きな力」として働いた。その結果、好循環が生じ、いじめが解決された。社会的ジレンマが解決された。
つまり、社会的ジレンマを解決するために必要なのは「爆発」のような「大きな力」である。それによって協力者を一気に増やすことである。7%から半数以上に協力者を増やすことである。例えば、65%に協力者を増やすことである。
まとめよう。
社会的ジレンマ解決のために必要な変化 7%協力 ⇒ 65%協力
こうまとめてみると、社会的ジレンマを解決する難しさが分かる。いじめを解決する難しさが分かる。
7%協力を65%協力に変えなければならないのである。ほとんどの人間が協力していない状態を半数以上の人間が協力する状態に変えなくてはならないのである。
そのような変化を生じさせるには「爆発」が必要である。「大きな力」が必要である。
だから、「いじめは人間として絶対に許されないことだ」と説諭しても効果が無いのだ。言い聞かせても、いじめは解決しないのだ。そのような普通の方法では7%協力を65%協力に変えることが出来ない。
いじめを解決するのは大変難しいことなのである。社会的ジレンマを解決するのは大変難しいことなのである。
いじめの〈発生メカニズム〉の理論モデルを使って、いじめの解決が難しい理由を説明した。解決のためには「7%協力 ⇒ 65%協力」の変化が必要なのである。そのような大きな変化を起こすのは大変難しい。