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【いじめ論36】子供は教師ではなく子供集団に従う

 大津市のいじめ自殺事件でも、鹿川裕史君の事件でも、教師はいじめを解決できなかった。いじめの事実を知っていたのに解決できなかった。
 教師は「権力」を持っている。命令し、従わない者には罰を与える。最終的には、成績として評価をする。これは大きな「権力」である。
 それにも関わらず、子供は教師に従わなかったのである。
 なぜ、子供は教師に従わないのか。
 小川幸男氏は言う。

 ……〔略〕……多くの学校の場合、すでに上級生が相互非協力状態や、協力状態が下がった状態になっている。入学当初の相互協力状態が落ちている。
 生徒にとって、非協力行為を選んでいる上級生と、様々な規制を行う教師ではどちらが影響力が強いか。これは明らかに、上級生である。中学生である彼らにとって、教師よりも上級生の方が「意味のある他者」として存在するからである。従って、上級生が非協力状態行為を選ぶ生徒生徒〔原文のママ〕が多いと、教師の規制よりも上級生の影響の方を強く受け、下級生の中にも非協力行為を選ぶ生徒が出てくる。(注1)

 教師より、上級生の方が「影響力」が強い。教師より上級生の方が「意味のある他者」として存在する。(さらに、同級生の方が「意味のある他者」として存在する。)
 なぜか。それは、子供にとって重要なのは子供集団の中で位置を占めることだからである。教師に従っても、子供集団の中で位置を占めることは出来ない。

 子供は教師ではなく子供集団に従う。

 教師より子供集団の方が「影響力」が強いのである。
 子供が子供集団に従う例を見てみよう。女子校生のスカートである。(注2)
 極端なミニスカートを着ている女子校生がいる。多くの教師はこのようなスカートを着ることには反対である。
 しかし、教師がいくら反対しても、彼女達は極端なミニスカートを着るのをやめない。それは集団の成員の大多数がミニスカートを着ているからだ。集団内でミニスカートを着ることが「常識」になっているからだ。
 実は、大阪ではロングスカートが「常識」になっている。それに対して、東京の女子校生は何と言ったか。

 東京の女子高生に大阪の写真を見せると「東京だと浮くけど、かわいい」と評判は上々。(『日本経済新聞』2013年12月22日)

 ロングスカートだと「浮く」のである。大多数がミニスカートを着ているからである。「浮」かないためには、ミニスカートを着る必要がある。
 この状況で、教師に従うのは危険である。ミニスカートを着るのをやめるのは危険である。それでは、「浮」いてしまう。それでは集団内での位置を失ってしまう。
 これは社会的ジレンマなのだ。集団内で特定の「常識」が出来てしまっている。一人だけでそれをやめる訳にはいかない。一人だけでやめては「浮」いてしまう。集団内での位置を失うことになる。
 いじめも同様である。いじめにおいても、子供は子供集団に従う。教師の説諭の効果が無かった例を見てみよう。(注3)

 「どういうことなのか、まわりの人、答えなさい!! リカとどうして机をはなさなきゃいけないのか説明しなさい。私は、君たちが中学生になってはじめての授業だからと一週間は黙って様子を見てきたけど、もう我慢できない!! どうしてリカのまわりだけ机の位置が乱れるの!! アキオ、答えてください!!」
 リカの両サイドの子どもたちが目をそらす。いわゆる優等生のアキオは、不服そうな表情のまま、わずかに自分の机をリカの側に寄せる。
 私は邪険にアキオの机を引き寄せ、リカの両サイドの子どもたちの机も強引に移動させる。子どもたちは、机の脚に自分の足をからませながら、素知らぬ顔で私を見つめ、私に机を動かせまいと抵抗している。私は、子どもたちをにらみすえながら荒々しく机や椅子を動かす。子どもたちは、私の力とけんまくに押されながらも、まわりの子どもたちと顔を見合わせ、抵抗を続けるべきか否かを暗黙のうちに相談しあっている。

 この子供達は教師には従わなかった。「顔を見合わせ、抵抗を続けるべきか否かを暗黙のうちに相談しあって」いたのである。子供は子供集団に従っていたのである。
 教師に従うことより、仲間集団に従うことの方が重要だったのである。一人だけでいじめをやめる訳にはいかない。一人だけやめては「浮」いてしまう。集団内での位置を失ってしまう。
 子供は教師ではなく子供集団に従うのである。


(注1)

 明石要一・小川幸男「生徒会活動を通じた学校活性化の方法」『千葉大学教育学部研究紀要』第45巻 、1997年

(注2)

 女子高生のスカート長さが東京と大阪で違う理由
  http://shonowaki.com/2015/05/11_1.html

(注3)

 熱血教師が「いじめは絶対に許されない」と言っても効果は無かった
  http://shonowaki.com/2015/02/post_116.html

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2016年02月12日 23:13に投稿されたエントリーのページです。

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